中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
松阪の魅力発信拠点
松阪市街エリア(三重県松阪市)
May 20. 2024(Mon.)
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馴染みのまちを再編集する!松阪市街エリア(三重県松阪市)
お伊勢参りの宿場町や、商人の町として発展した三重県松阪市。『古事記伝』の筆者で国学者・本居宣長の生誕地、三井家の発祥地、映画監督・小津安二郎が青春期を過ごしたことでも知られる土地です。
そこで地元の魅力を掘り起こしているのが、地域特化型の5人組クリエイティブチーム「vacant(バカント)」。
代表の中瀬皓太さんを訪ね、vacantの拠点「MADOI(マドイ)」とメンバーが運営する「アオゾラ食堂」をご案内いただきました。
さまざまな出会いに満ちた
松阪のまちの集会所
中瀬皓太さんはじめ、職種が異なる5人のメンバーが立ち上げた、地域密着型のクリエイティブチーム・vacant。その拠点となっているのが、メンバーの一人・中瀬理恵さんが運営する「アオゾラ食堂」の2階にある「MADOI」です。その名は、本居宣長が仲間たちと円を描くようにまるくなって座り、情報交換していたサロン「円居(まどい)」にちなんでいます。
ビルの階段を上がると現れる広々とした空間には、カフェスペースや、さまざまな種類の本が詰め込まれた本棚もあります。その本をお茶を飲みながら自由に読むことができるカフェや図書室、県内外のものをセレクトした雑貨店、定期講座が開催される文化センター、トークイベントや交流会がおこなわれる集会所と、MADOIはいろいろな役割を果たすスペースとして活用されています。
カフェメニューには、地元の名士・本居宣長にちなんだ名前の「宣長クレープ」が。パリパリの生地にバターシュガーをのせて、隠し味に粗塩を効かせることで、あまじょっぱい味付けに。
それから、vacantが作成する「松阪偏愛マップ」のように、MADOIの本棚も偏愛を感じるセレクト。旅、デザイン、写真、エッセイ……。偶然手に取った本を開いたその先に、新たな価値観や出会いが見つかりそうでわくわくします。
雑貨販売スペースには、偏愛マップをモチーフにした手ぬぐいやTシャツが。マップやグッズのイラストは、メンバーの中瀬理恵さんによるもの。思わず笑みがこぼれゆるやかな雰囲気が、気張らずに寛げるMADOIの空気感と重なります。
MADOIには会員制度があって、会員同士の交流も盛ん。イベントや勉強会に特別価格で参加できることもあり、まさに本居宣長が開催していたサロンが現代に蘇ったような気さくな雰囲気。
中瀬皓太さんは、デザインの仕事をする中で知り合った、全国にネットワークを持った方に、「今度この地域にでかけるんです」と伝えると、「そのまちのことは、この店のこの人に聞くといいよ」とキーマンを教えてもらい、お世話になってきたと言います。
このMADOIもそんなふうに、普通の観光とは違った形で松阪を楽しんでもらう拠点にしたいと、話してくれました。
MADOI
https://madoi.mie.jp/
家族みんなで経営する
定食が名物の松阪の台所
MADOIから場を移して、ビルの1階にある「アオゾラ食堂」へ。
オーナーは、vacantのメンバー・中瀬理恵さん。「松阪偏愛マップ」の、ほどよく気が抜けたゆるやかなイラストも手がける多才な方です。もともと料理人として飲食業界で働いており、誰でも気軽に利用できるまちの食堂をつくりたいと、2017年にアオゾラ食堂を始めました。その翌年に今の場所に移転をしています。
私がアオゾラ食堂を訪ねたのは平日の午後。忙しい昼時を外したものの店内はほぼ満席で、さまざまな年齢層の方で賑わっていました。
働いているのは理恵さんの家族。抜群のチームワークと地域の人たちを思う温かさが、優しい店の雰囲気を作り上げています。
人気のメニューは、主菜(肉か魚)1品と、ショーケースから3種類の副菜を選べ、ごはん、味噌汁、漬物が付く「本日の定食」セット。ボリュームがあって、バランスよく栄養もとれることが支持されている理由なのでしょう。
この日、私が定食で選んだのは、メインに玉ねぎソースのハンバーグ。副菜は、切り昆布と大豆の五目煮、大根とセロリの梅肉サラダ、ブロッコリーと卵のサラダ。地元のお米を使ったごはんもすすみます。
MADOIもアオゾラ食堂も、誰でも優しく包み込んでくれるような雰囲気をつくり出しています。
アオゾラ食堂
https://mondcafe.net/