甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

手紙社進出のきっかけとなった
「松本十帖」について
浅間温泉(長野県松本市)

September 24. 2024(Tue.)

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東京・調布の人気雑貨店が松本に出店した理由とは?浅間温泉(長野県松本市)
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浅間温泉に新しい風を吹き込む「手紙舎 文箱」浅間温泉(長野県松本市)

長野県松本市、市街から車で約20分ほどの温泉街「浅間温泉」は、豊かな自然を感じられる安曇野や上高地へ向かうのにも便利な場所。1,300年以上湧き続ける名湯は松本城主が通ったことでも知られており、竹久夢二、若山牧水、与謝野晶子などの文人墨客にも愛されてきました。
そんな歴史ある温泉街に、2022年7月にオープンした雑貨とカフェの店「手紙舎 文箱(ふばこ)」。
運営する手紙社の代表・北島勲さんとともに、文箱の浅間温泉出店のきっかけとなった「松本十帖」を訪ねました。

浅間温泉に差し込む新たな光
生まれ変わった老舗旅館

手紙社の北島さんに「手紙舎 文箱」をご案内いただいた後、今度は文箱が浅間温泉にオープンするきっかけとなった「松本十帖」の施設を訪ねました。

「松本十帖」は、浅間温泉で1686年創業という長い歴史を持つ老舗旅館「小柳」の再生にあたり、名付けられたプロジェクトの総称です。宿だけでなく、文人墨客に愛された温泉街全体にあらたな物語が始まるようにと、「10の物語」を意味する十帖という言葉を用いています。

松本十帖の敷地内には、「松本本箱」「小柳」という2つのホテル、ブックストア、ベーカリー、主に地元の良品を扱うショップ、レストラン、シードルの醸造所などが点在しています。さらには、徒歩で行き来できる敷地外にも2つのカフェがあります。ひとつの建物内にさまざまな機能をぎゅっと押し込めるのではなく、あえて施設を分散させているのは、温泉街を回遊する人が増えるように考えられてのこと。実際、松本十帖が作成した「浅間温泉町歩きMAP」を手に、風情ある温泉街を歩く人の姿が多く見られるようになりました。

松本十帖支配人・小沼百合香さん(左)、
手紙社代表の北島勲さん(右)とともに。

「手紙舎 文箱」から、ブックホテル「松本本箱」に移動。松本十帖の支配人を務める小沼百合香さんと合流し、あらためて松本十帖と手紙社とのつながりについて伺いました。
もともとは、松本十帖の代表者・岩佐十良(とおる)さんと古い知り合いだったという北島さん。しばらく会う事がない時期はありましたが、時を経て、岩佐さんは新潟のホテル「里山十帖」の、北島さんは東京・調布「手紙社」の経営者として再会します。そうして再び意気投合し、里山十帖で手紙社のイベントを開催することに。そのときの担当者が、当時は里山十帖の支配人だった小沼さんです。

小沼さんは新潟から松本に移り住み、松本十帖の立ち上げに取り組みます。江戸時代からの歴史ある老舗旅館「小柳」を再生し、もうひとつあらたなホテル「松本本箱」を運営していくことだけが、小沼さんの仕事ではありませんでした。もちろん宿を軌道にのせることは大切だけれど、同じように必要なのが、歴史ある温泉街が昔のように活気を取り戻すこと。松本十帖の準備に取り組み始めた2018年頃、日中の温泉街は閑散とした状態でした。
これからの浅間温泉の未来のために、岩佐さんと小沼さんは、浅間温泉に手紙社を誘致しようと北島さんに働きかけました。
そうして2022年7月に「松本十帖」はグランドオープンを迎え、同時期に「手紙舎 文箱」も営業を開始しました。

「浅間温泉に文箱ができたことで、日中も温泉街を歩く人が増えています。松本十帖と文箱をハシゴされる方が多く、みなさん楽しそうにされています。それから、浅間温泉が賑わいを見せていた、古き良き時代を知っている地元の方々は美意識が高く、私たちがまちのためにやりたいことを応援したり協力してくださってとてもありがたい。その分、私たちも、旅行者だけでなく地元の人たちも日常的に施設を利用していただけるようにしています。まだまだまちにはたくさんの空き家があるので、手紙社と協力して活用していきたいですし、まちが力を取り戻すなんらかのモデルをつくりたい」
小沼さんは力強くまっすぐに、浅間温泉への想いを話してくださいました。

新潟「里山十帖」の支配人を経て、
松本十帖の立ち上げに参画したという小沼さん。

まちのシンボルだった老舗旅館を
誰もが利用できる施設に

まず訪れたのはブックストア併設のホテル「松本本箱」。となりに建つ「小柳」とともに、もとは老舗の旅館だった建物をリノベーションした施設です。
書店のフロアは、予約制ですが宿泊客以外も利用できます。
「近所に住む方々の中には、この建物に入ったこともないという人も多くいました。誰でも足を運べるスペースを設けることで、身近な存在となりました」と小沼さん。
1階フロアの各部屋や廊下の壁面が書棚で埋め尽くされており、雰囲気のある照明と相まって、まるで“本の館”に迷い込んだようでワクワクします。
あえてインデックスで分けず、表紙を見せる陳列のスタイルで、先入観を持たずに気になる本を手に取れるよう工夫されています。

壁面いっぱいの書棚に本が並ぶ。
もともと浴場だったフロアにも本が。圧巻の風景。
児童書が並ぶ「こども本箱」コーナーは
まるで迷路。本との出会いが楽しい体験に。

ホテル「小柳」のロビー階にあるのが「浅間温泉商店」。信州・長野の物産品を中心に、松本十帖オリジナルの商品などが揃う雑貨&食品の店です。奥にはベーカリー「ALPS BAKERY(アルプスベーカリー)」が併設されており、信州産小麦粉を使ったパンが焼かれています。
これらの店も、宿泊者以外も自由にショッピングができるとあって、観光客から地元の方々まで多くの人が利用されているそうです。

「小柳」のエントランス。
土産物探しにも最適な「浅間温泉商店」。

「松本本箱」「小柳」のレセプションを兼ねたカフェが「おやきと、コーヒー」。周辺住民の共同湯「睦の湯」の一角にあり、添加物を使っていない手づくりおやきと1杯ずつハンドドリップしたコーヒーを味わえます。
宿泊施設から少し離れた場所にあるのは、ホテルに向かう道すがら、浅間温泉街全体をゆっくりと散策しながら、まちの空気を感じてもらいたいという想いから。

さらに1軒、「松本十帖」の一角をなすカフェが「哲学と甘いもの」。木造平屋の素朴な建屋のなかには哲学書が並んでおり、物思いにふけりながら、あんみつなどの“甘いもの”で頭をリフレッシュできるブックカフェです。

これら松本十帖のスポットを回遊しながら、浅間温泉の滞在を楽しめるようになっているのです。


松本十帖
https://matsumotojujo.com///

コーヒーの香り漂う「おやきと、コーヒー」の店内。
色とりどりのおやきは、「野沢菜」「つぶあん」
といった定番のほか、季節限定の味も用意。
自分をみつめるのにもってこいの
静かなカフェ「哲学と甘いもの」。

MAP

浅間温泉
長野県松本市
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