中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
全国から集った
選りすぐりの手しごとを愉しむ
「ART&CRAFT 静岡手創り市」(静岡県静岡市)
January 14. 2025(Tue.)
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全国から注目されるクラフトイベントへ「ART&CRAFT 静岡手創り市」(静岡県静岡市)
日本では古来からつくり手と買い手をつなぐ場として、同じ季節や決まった月日に野外でおこなわれる“市”が大きな役目を果たしてきました。
物資の流れが多様化し、さまざまなものがすぐさま手に入るこの時代にも、人や物の交流を生み、賑わいを呼ぶ市が開催されています。
「ARTS&CRAFT 静岡手創り市」もそのひとつ。毎年春と秋に各2日間開催され、静岡県の内外から人が集まる大人気のクラフトマーケットです。
2024年秋、念願だったこのイベントに足を運び、主宰者・名倉哲(なぐらさとし)さんにお話を伺うとともに、2日間じっくりと楽しむことができました。今回は、訪れたブースの中から、手しごとの作家・作品をご紹介します。
ART&CRAFT 静岡手創り市
https://www.shizuoka-tezukuriichi.com/
https://www.instagram.com/a_c_shizuoka/
県外から多くの人が訪れ
静岡の活気につながる
2010年にスタートした「ART&CRAFT 静岡手創り市」。130~140組の出展者は、静岡県内に限らず、全国各地からやってきます。
名倉さんから声をかけることがあるのですか?と質問したところ、「声かけはせず、原則は公募です。開催場所が地元であることは大事ですが、参加して活躍する作家はできるだけ他の地域から来て欲しい。そのことで結果的に静岡に新しい人や物が流れ込み、楽しさを生むと思うんです」。
確かに、私を含め、市の開催前後に行きたかった店に足を運んだり、静岡のまちを歩く人が多くいるのでしょう。静岡手創り市は作家や物だけではない、他地域からの人の流れや賑わいを静岡にもたらしているのです。
またこの日、会場となっている靜岡縣護國神社の禰宜(ねぎ)・藤本 大さんのお話を伺うことができました。「私たちは神社をお守りすることと同時に、多くの方にお参りいただくことが目指すところ。静岡手創り市には、幅広い年代、とくに若い方や子育て世代の方が多く来てくださるので良い機会になっています」とお話されていました。
靜岡縣護國神社
https://shizuokagokoku.jp/
2日間にわたり
静岡手創り市を楽しむ
手工芸・クラフトなど暮らしに根ざしたものを中心に、陶芸・木工・ガラス・ 金工・皮革・染織、素材を生かした焼き菓子やパンやお茶など、さまざまなものが一同に介する静岡手創り市。
ただ机の上にものを並べて販売するのではなく、作家それぞれが自分の作品の舞台を作り上げディスプレイしているので、緑豊かな神社の参道に、多彩な風景が広がっています。
静岡手創り市を訪れたことがある知人から、「たっぷり楽しむなら2日間とも行くと良いよ。2日目のほうが少し落ち着いてゆったりと散策できる」と教えてもらっていました。
私も静岡に宿泊して、2日間じっくりと堪能。手創り市にふわふわと浮かぶたくさんの光をすくい集めるように、時間をかけて順番にブースをめぐりました。
会場は市という性質から、もちろん物が売買される場ではあるのですが、私たちが普段の生活を豊かに営むための、愉しみや知恵、哲学、美意識がそこかしこに漂っています。
自分の暮らしを見つめ直したり、理想や憧れを抱いたり、またこの場に再び訪れたいと思ったり。いろんな感情が浮かび上がりました。
そんな中、私が足を運んだブースをいくつかご紹介します。
「SUNNY TREE」
出展者リストを見ていたとき、最初に気になったお店でした。WEBサイトやSNSを見ると、「兵庫県の片田舎に完全予約制のアトリエがある」とあり、静岡で実際に手に取れる機会は貴重です。
外国の古い映画の登場人物が着ているような、どこかクラシカルなディティールのワンピースに惹かれ、実物を手にとり試着するのを楽しみにしていました。
訪れるとたくさんの人で、すでに多くのお洋服が旅立っていったよう。それでも残っている衣類は好みのものばかり。
エプロンワンピースを洋服の上から試着させていただくと、心地のいい素材でシルエットもゆったり。この服を纏い、木々の中をピクニックするように静岡手創り市を歩きたいとイメージが湧いてきました。
残念ながら、私が試着させていただいたものはすでに売約されていたものだったようですが、またきっと別の機会があるような気がしています。
「SUNNY TREE」
https://www.instagram.com/sunnytree.ito/
https://www.sunnytree.info/
「cem’s embroidery(セムズ エンブロイダリー)」
小さな刺繍のブローチをつくられている立原チエミさん。静岡手創り市のロケーションや他の出展者さんたちの作品・ディスプレイを気に入り、茨城県水戸市から娘さんを連れて参加されていました。雑司ヶ谷の手創り市にも出展経験があるそうです。
フェルトの土台に、ひと針ひと針丁寧に刺繍をしたブローチやイヤリングは、甘いお菓子のような佇まい。
秋の市だったので、作品のモチーフは、セーターや手袋、パンのかごなど温かみのあるもの。春夏は麦わら帽子や鳥などが登場するというのでぜひ見てみたいと思いました。
立原さんが、にこにこ優しい笑顔でお話ししてくださったことも印象に残っています。
市のいいところは、こうして直接作家さんの人柄に触れながら、作品についてお話しを伺うことができることにもあるなと嬉しくなりました。
「cem’s embroidery」
https://cem.base.ec/
https://www.instagram.com/cem_broche/
「日々の木工舎」
京都で生まれ、現在も京都で活動をしている木工作家・日比野雄也さん。
事前に拝見していたSNSで、繊細で美しいフォルムのフォークやスプーンが気になり、ブースを訪ねました。
木の違いや塗装、手入れの仕方などについて、とても丁寧にお話しをしてくださり、ひとつの作品が生まれるまでにどれだけ手がかけられているのかを直に知ることができました。
沖縄と長野で修業を積んだという日比野さんがつくる作品には、沖縄県産の木材が多く使われています。
手にすると思っていたよりずっと軽やかで、作品に触れる手も自然と力が抜け、この器やカトラリーで食事をしてみたいと憧れが湧き起こりました。
ナラ、イスノキ、コクタン、クリ…木が違えば当然できあがったものの表情も異なります。
ひとつとして同じものがないことをあらためて感じて、手創り市の全てが一期一会なのだとしみじみとしました。
「日々の木工舎」
https://www.instagram.com/hibino_mokkousha/
https://miyagiya.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=2739233&sort=n&sort=n