甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

歴史深い宿場町が
かき氷のホットスポットに

旧東海道と「桑名かき氷街道」(三重県桑名市)

September 02. 2025(Tue.)

かつては東海道五十三次の42番目の宿場町・桑名宿として栄えた三重県桑名市。現在の名古屋市熱田区に位置した宮宿と東海道で唯一、海路で結ばれ、行き交う人々で賑わった歴史のあるまちです。
そして近年、夏季になると「桑名かき氷街道」の開催で、多くの人が訪れることでも注目を集めています。

今回は、「桑名かき氷街道」の発起人で、生粋の桑名っ子でもある林 雅也さんに、イベント発足のきっかけやまちのことをお聞きしました。

個性豊かなかき氷が味わえる
日本一の暑さが観測されるまち

東海道五十三次の宿場町であり、木曽川、長良川、揖斐川の木曽三川が注ぐ伊勢湾の奥地に位置する三重県桑名市。

江戸時代には、将軍家に献上されたハマグリや、牛肉を使ったしぐれ煮、お伊勢さんの参拝客に人気だった粒あん入りの細長い焼き餅「安永餅」など、名物にも恵まれています。近年では、夏場になると「全国一番の暑さを観測」する地域として、桑名の地名を聞くこともあります。

個人的には、以前に書籍『アイスの旅』(グラフィック社)を制作した際、昭和の時代からミルクアイスと小豆を合わせたアイスキャンディの「アイス饅頭」をつくる店が何軒かあると知って、食べてみたいと足を運んだことがあります。その頃から、この地域には冷菓が根付いているイメージがありました。

そんな桑名で、2021年から夏の間に「桑名かき氷街道」なるスタンプラリーイベントが開催されていることを知りました。アイス好きとしてはあらためて、かき氷を目的に桑名を訪ねてみたいと思うように。そうして今回、イベントの発起人で、現在は事務局スタッフとして運営をおこなう林 雅也さんに、お話を伺うことができました。

東海道桑名宿。宮宿~桑名宿までの区間は、
東海道内唯一の海路として知られる七里の渡がある。
旧東海道沿いには、今も老舗や人気の飲食店が並び
江戸時代の面影がそこかしこに残されている。

桑名城下の町人や藩士が楽しみにしていた夏の祭「石取祭(いしどりまつり)」の舞台「春日神社」の近くで生まれ育った林さん。一時期は視野を広げたい思いから東京で仕事をしていましたが、地元が好きで桑名に戻ってきました。
ちょうどそのタイミングで、明治時代から続く桑名を代表する料理旅館「船津屋(THE FUNATSUYA)」が、結婚式場など新たな展開を始めることに。立ち上げスタッフとして携わったあと、東京時代のスキルを活かして、企業のイベントや映像を制作する現在の仕事を始めました。

「桑名市を中心に地域の人のためのイベント企画をおこなうNPO法人『桑名活性化』や、地元の商売人たちと一緒に、町おこしのイベントをしてきました。七里の渡し公園で、水辺の有効活用と賑わい創出を目的とした『水辺で乾杯』も取りまとめをしています。そんな中、すでに名物として知られているハマグリ以外にも、桑名を象徴するものが何かないかと考えました。桑名はよく日本一の暑さがニュースになることと、業務用厨房機器の氷削機(かき氷機)でトップクラスのシェアを誇る会社『中部コーポレーション』の本社があることに着目しました」

桑名には、昭和の時代からかき氷を出す店が多くあり、林さん自身子どもの頃から、市民プールで泳いだあとにかき氷を食べるのを楽しみにしていたそうです。

市内の映像・イベント等を手がける制作会社に
勤務する「桑名かき氷街道」発起人の林 雅也さん。
「THE FUNATSUYA」のバンケットにて。

「桑名かき氷街道」の誕生にもうひとつ大きく影響しているのが、桑名から伊勢までの参宮街道が別名「餅街道」と呼ばれていること。江戸時代、お伊勢参りに向かう旅人は、道中に素早く食べることができ、腹持ちもいい餅を好んで食べていました。そうして今も旧街道沿いには老舗の餅店がさまざま残り、地元の人だけでなく観光客にも愛されています。

「すでに三重に餅街道が根付いているように、地元・桑名を『かき氷街道』として盛り上げよう」。
そう思いついた林さんは、市内のかき氷を出す店に声をかけていきました。観光名所の「六華苑(ろっかえん)」に併設する「Rocca」に始まり、昔は湊町・桑名の玄関口だった川口町・江戸町や、桑名寺町通り商店街と、徒歩で巡ることができる範囲にある15店舗からスタートしました。そこから少しずつ、旧長島町や旧多度町にまでエリアを広げて、今では参加店舗数は26店を数えます。

近年、全国的にもかき氷ブームが続いています。そうして通称「ゴーラー」と呼ばれる、かき氷愛好家たちからも注目を集めることに成功し、今では全国各地から、かき氷好きが集まる「かき氷のまち」として知られるようになってきました。ゴーラーのみなさんは、一人で1日3杯ほど食べ歩く人も珍しくないそうです。

「桑名かき氷街道2025」WEBサイト
https://kuwana-kakigoori.com/
「桑」と「氷」を合わせた
涼やかなロゴマーク。
「桑名かき氷街道 2025」
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