甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

地域で親しまれているスポットで
「地元愛」を体感

旧東海道と「桑名かき氷街道」(三重県桑名市)

September 05. 2025(Fri.)

ー前回までの記事はこちら
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歴史深い宿場町がかき氷のホットスポットに 旧東海道と「桑名かき氷街道」(三重県桑名市)
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見た目も味も抜群のご当地かき氷を味わう 旧東海道と「桑名かき氷街道」(三重県桑名市)
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歴史と文を物語る桑名の名所へ 旧東海道と「桑名かき氷街道」(三重県桑名市)

かつては東海道五十三次の42番目の宿場町・桑名宿として栄えた三重県桑名市。現在の名古屋市熱田区に位置した宮宿と東海道で唯一、海路で結ばれ、行き交う人々で賑わった歴史のあるまちです。
そして近年、夏季になると「桑名かき氷街道」の開催で、多くの人が訪れることでも注目を集めています。

今回は、「桑名かき氷街道」の発起人である林雅也さんの紹介で、ちょっとディープな桑名のスポットに足を運びました。

「歴史を語る公園」

「七里の渡跡」「六華苑」と名所を巡り、次に足を運んだのは「歴史を語る公園」です。

東海道の宿場町で伊勢路の玄関口、また同時に桑名藩の城下町で木曽三川の河川交通の便がよく、伊勢湾の海上交通も担う港町…と、非常に機能的で当然多くの人が行き交う要所だった桑名のまち。そんなことから、東海道五十三次をモチーフに、江戸・日本橋から京都・三条大橋までをイメージしてこの公園が造られたそうです。

子どもの頃の林さんは、何気なくこの場所で遊んでいたそうですが、大人になってよく見たら、公園の中に東海道の縮小版が広がるユニークな場所だと気がついたのだそうです(笑)。

私は、静岡、京都、東京と、東海道沿いで暮らしてきたので、「日本橋だ!」「やっと富士山!」「京都の三条大橋についた!」と、かなり楽しむことができました。


歴史を語る公園
https://www.city.kuwana.lg.jp/kanko/miru/history/history021.html

「歴史を語る公園」は、東海道の
始まり「日本橋」からスタート。
私の故郷・静岡県にそびえる、
ミニサイズの富士山もありました。

「八百勇」

最後に訪れたのは、焼きそば好きの私にはたまらない鉄板焼きの「八百勇(やおゆう)」。林さんも長年通う常連だそうです。

なんと創業から100年以上経つ老舗。もとは何でも屋のような店だったのが、戦後からお好み焼きを出す鉄板焼きの店に。「何でも屋」から数えると3代目にあたる名物おばあちゃんが店を切り盛りしていましたが、2020年に惜しまれつつ一度閉店。しかし復活を求める声を受けて、おばあちゃんの姪・鈴木江里さんが、2023年に再び鉄板に火を付けました。

江里さんは、この店が実家で、働く叔母さんの姿を見て育ってきました。学校から帰ってきたら店で食事をしていたそうです。
「近所の大人たちが居酒屋のように利用することが多く、昔は夜遅くまで店が開いていました」と江里さん。
店内には、アルミのカップや木製のおかもちなど懐かしい道具類が置いてあります。
著名人も訪れていたようで、1986年に書かれた放送作家で作詞家でもあった永 六輔氏のサインが。最初は知り合いに連れられて来店したそうですが、永さんは店を気に入って、3回ほど訪れているそうです。

赤い看板が目に飛び込んでくる。
先代から受け継いだ鉄板で調理する鈴木江里さん。
特等席で、ミックス焼きそばをいただきました。

メニューは昔からあまり変わっていないそうですが、先代からつくり方を習ったわけではなく、受け継いだ鉄板を使って、あくまで江里さん流に料理をしています。
まずは、焼きそばを注文。肉と卵どちらも入るミックスが定番です。江里さんは「特別なことはしていません」とおっしゃっていましたが、もっちりとした麺に香ばしいソースの香り、さらにはちょこんとのった目玉焼きは、歴史ある八百勇の佇まいに合った味と風景です。
あらためて私は、お腹がすいたときに、誰でも気取らず気軽に味わうことができる焼きそばの庶民性に惹かれているのだと気が付きました。

私が生まれ育ったまち(静岡県富士宮市)では、焼きそばを味わうことができる鉄板焼き屋に駄菓子も置いてあることが多かったので、子どもだけで訪れることがありました。しかし八百勇は、どちらかといえば大人の社交場としての機能を果たしていたのが地域性の違いを感じられて面白いところでした。地域の人たちの集いの場として、ときにファストフード、ときに居酒屋と、気軽に利用し地域で愛されてきたことに違いはありません。


八百勇(鈴木江里さんInstagram)
https://www.instagram.com/eri_suzuki_yaoyu/

大きめに切った野菜と肉入りのミックス焼きそば。
ネギたっぷりのネギ焼き。お酒のアテに
味わう人も多い人気メニュー。
卵焼きと桑名市の飲料メーカーが発祥の
瓶入りクリームソーダ「スマックゴールド」。
江里さんの叔母で、先代店主の写真が。

今後もきっと誕生する
魅力ある名物に期待

今回、林さんに案内・紹介いただいたスポットの多くは、七里の渡跡の周辺で、そのほとんどが徒歩で巡ることができる範囲。現在の交通の要である桑名駅周辺からは少し離れた、旧東海道沿いに残る歴史的な名所や、どこか懐かしさを覚える景色を楽しむことができました。

桑名といえば、多くの人が真っ先にハマグリを思い浮かべるかもしれませんが、かき氷という新たな名物でまちに人を呼び込み、地元の人たちが工夫を凝らしながらそれぞれの個性を発揮しているのも印象的でした。
林さんは、桑名は鋳物が有名なので「鍋街道」のイベントもできたら…と模索しているそう。

思えば東海道が賑わいを見せた江戸時代も、常に地域を盛り上げるための、祭り(イベント)や名物が生み出されてきたはず。季節ごとにイベントを開催し、名物をつくり出すその姿も、代々受けつがれる「地元愛」なのでしょう。

「桑名かき氷街道 2025」
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