
中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
ここにしかない景観と
伝統の湯めぐりを堪能
渋温泉(長野県山ノ内町)
January 08. 2026(Thu.)
ー前回までの記事はこちら
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海外からも脚光を浴びる 山間の温泉街 渋温泉(長野県山ノ内町)
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もっと居心地良い温泉街へ 道を拓く新しい風 渋温泉(長野県山ノ内町)
開湯1350年の歴史がある長野県の渋温泉。江戸時代は草津温泉と善光寺を結ぶ草津街道の宿場として多くの人に利用され、愛されてきました。同時に、地元の人たちは9つの外湯を大切に育てあげ、湯宿に宿泊する客人をもてなしています。
今回は、旅館「かどや」を運営する株式会社ヤドロクの石坂大輔さんに、温泉街の特徴である路地の魅力をご紹介いただいたほか、気になる菓子店へも足を運びました。


渋温泉ならではの
「路地歩き」を楽しむ
さて、今回はあらためて、渋温泉のまち歩きを楽しみたいと思います。渋温泉は温泉好きの方に勧められてずっと訪れてみたいと憧れていた温泉街です。
渋温泉で生まれ育った旅館「古久屋」の17代目・小根澤宏介さんが「路地や小路が入り組んでいて迷路みたいなまち。子どもの頃は、友達と一緒にかくれんぼしたり、まち中が遊び場でした」と話してくださったように、一通り散策して慣れるまではちょっとした迷宮に迷い込んだよう。
石坂さんも「今の法律ではつくることができない建物の密集地。細い路地がたくさんあるので、とにかくまち歩きが楽しい。どこをとってもフォトジェニックです。昔からまちを知る人に話を聞いたら、建物の増築を繰り返したことで、それぞれが複雑なつくりとなり、独特の雰囲気を織りなしているそうです。新しく造り直してしまうと二度とこういう風情のある温泉街はできませんね」とのこと。


歩いていて飽きない独特な雰囲気。
掃除といってもかなり大規模で、
維持の苦労を垣間見た。


川沿いを散歩するのも心地がいい。
九湯めぐり
渋温泉といえば、地元の人が毎日利用する外湯と呼ばれる9つの共同浴場が有名です。昔から大切に守ってきた温泉を、おもてなしの心で、宿に宿泊する客人にも「九湯めぐり」として開放してくださっています。私も、ありがたくエチケットを守って丁寧に入浴しました。
「九湯」はそれぞれ源泉や効能が異なり、少しずつ雰囲気も違っています。宿や土産物店で祈願手ぬぐいを販売しているので、スタンプを押しながらめぐれば、九(苦)労を流して、厄除けや不老長寿のご利益があるといわれています。九湯めぐりの最後は、「渋高薬師」へ参詣して印受することで満願成就。
温泉街を浴衣に下駄姿で歩く人が多く、カランコロンと響く音が耳に優しく届きます。
九湯めぐり
https://shibuonsen.net/onsen/


スタンプを押しながら九湯めぐり。




小古井菓子店
1932年創業の「小古井(こごい)菓子店」。和菓子をはじめ、さまざまな商品が並ぶ店の一角に、昔ながらのパンのコーナーがありました。
そこで一際目を引くのが「うずまきパン」。
マーガリンが入った生地の上に、カスタードでくるくるっとうずまき模様が描かれた愛らしいパンです。
「うずまきパンは、祖父が考案しました」と現店主の姉・小古井市江さん。
購入すると「すぐに食べますか?」と聞かれます。すぐ食べたい場合は、電子レンジで数十秒温めてもらえるのです。温めたうずまきパンは、塩気のきいたマーガリンが生地にじゅわっと染み込んで、格別なおいしさ。
「温めるのは、10年と少し前から始めたサービスです。ちょっとあたためてマーガリンが溶けた状態で差し上げたほうが、とくに初めて食べる方には口当たりいいかなと思って。私はマーガリンが固まったまま食べる方が好きなので、好みは別れますけど(笑)」。
温泉街といえば温泉まんじゅうが主流な中、おやつにパンの選択肢があるのが嬉しい。うずまきパンを温めてもらって店先でも味わいましたが、もう一つ購入して、宿でもいただきました。ふんわり懐かしい味わいのパン。昭和の風情が残る渋温泉にぴったりです。
小古井菓子店
長野県下高井郡山ノ内町大字平穏2114
0269-33-3288


菓子とパンは弟さんがつくっている。


温めてもらったパンを店先で。生地に塩気のある
マーガリンがじゅわっと染み込み絶品。
九糖めぐり
渋温泉には、小古井菓子店のほかにも和菓子屋が点在しています。
温泉街の甘味を旅行客に楽しんでもらおうと、「九湯めぐり」にかけ「九糖」を集める名物「いとをかし箱」があります。
お菓子屋さんで、9つに仕切られた「いとをかし箱」を買い求め、9つの棚の中に自分の好きなお菓子や小さな土産物を集めてまわります。
温泉まんじゅうひとつとっても、店ごとそれぞれ異なる味わい。和菓子店で買い集めたり、食べ比べしたりするのは楽しい時間。帰りの電車のおやつにもなりますね。
私の「いとをかし箱」の中身は、温泉まんじゅう、猿のキャンディのほか、甘いものではないけれど、風呂桶のキーホルダー、ステッカー、缶バッジと気になる雑貨も。
九湯めぐりをしながら、和菓子・土産物店で「九糖」を集めることができて、2倍楽しめました。


九つの旅の思い出を詰め込んだ。





