
中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
温泉好き・建築好きの憧れ
「金具屋」を見学
渋温泉(長野県山ノ内町)
January 09. 2026(Fri.)
ー前回までの記事はこちら
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海外からも脚光を浴びる 山間の温泉街 渋温泉(長野県山ノ内町)
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もっと居心地良い温泉街へ 道を拓く新しい風 渋温泉(長野県山ノ内町)
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ここにしかない景観と 伝統の湯めぐりを堪能 渋温泉(長野県山ノ内町)
開湯1350年の歴史がある長野県の渋温泉。江戸時代は草津温泉と善光寺を結ぶ草津街道の宿場として多くの人に利用され、愛されてきました。同時に、地元の人たちは九つの外湯を大切に育てあげ、湯宿に宿泊する客人をもてなしています。
今回は、かねてから訪れたいと憧れていた旅館「金具屋」を見学させていただいた様子をお届けします。


歴史の宿 金具屋
以前、国の登録有形文化財に指定される宿を調べる中で存在を知って、いつか訪れてみたいと憧れていたのが、渋温泉の「歴史の宿 金具屋」です。「旅好き」「温泉好き」「建築好き」「物語の世界好き」を魅了する温泉宿として知られています。
金具屋はその名の通り、もともとは金具を扱う鍛冶屋を営んでいたそうです。温泉宿としての創業は1758年。260年以上の歴史があります。
魅力は、やはり建築の妙でしょう。明治から昭和中期にかけて建てられた5つの建物が残されています。なんでも、6代目の当主は宮大工を連れて全国各地をめぐり歩き、観光地や一流の建造物を視察して、ほかにない最高の旅館を造ろうと取り組んだのだとか。細かな意匠や素材にまで、凝りに凝った造りなのはそのためです。
館内はただ美しいだけではない、「粋」という言葉が似合う、遊び心がちりばめられています。異世界に潜り込んだような、風変わりな雰囲気が漂っているのも大きな魅力。
2003年に、国の登録有形文化財に認定されました。
夜間にライトアップされる。


200畳を超える大広間。これだけの広さで柱が
ないのは技術の賜物。


手前の灯りは月を表している。


宮大工の確かな腕と遊び心が施されている。
8箇所あるお風呂は、源泉100%掛け流しの火山性高温泉。部屋の蛇口から出るお湯もすべて源泉から湧いた温泉そのものということも、温泉ファンを惹きつける理由です。
物語の世界のような雰囲気の中でときを過ごし、温泉に浸かってゆったりと過ごすことができるのです。
また、毎冬おこなわれる音楽フェス「音泉温楽」の会場としても使用されています。きっとほかでは味わえない世界観で音楽に身を委ねられるはず。いつか参加してみたいと思っています。
さらに、猫好きの私にとって、金具屋には数匹の保護猫が暮らしているのも嬉しいポイントでした。
ロビーに設置されたカプセルトイを回すと、看板猫のバッジが出てきます。バッジの売り上げの一部は長野県動物愛護会に寄付されているとのことで、私もささやかながら回して楽しみました。
今回は特別に、9代目の西山和樹さんに館内をご案内いただきました。
毎日、宿泊者限定で開催される建築ツアーに参加すれば、より歴史や建築について深く知ることができます。
歴史の宿 金具屋
https://kanaguya.com/
https://www.instagram.com/kanaguya/


すべて異なる造りに仕上げている。


ローマの噴水を 模した洋風の浴堂でステンドグラスも見どころ。




「建築」と「源泉」のツアーを開催。
温泉も人も温かい
人に勧めたくなる温泉街
旅館「かどや」のスタッフとして働くトルコ人のウムトさんも言っていたように、渋温泉のみなさんは温泉のように温かに接してくださいました。誰もが穏やかに出迎えてくださり、ほわほわ優しい気持ちに満たされました。街の景色に、ピカピカ真新しいものがないのも、ほっと心が落ち着いた理由かもしれません。
昔から受け継がれる建物や風景をさりげなく活かしながら、石坂さんをはじめ若手のみなさんが、じんわりと深い愛で温泉街を守り抜いています。海外からの旅行者もさぞや居心地がいいことでしょう。
「特別に海外に向けてPRをしなくても、一度渋温泉を訪れた旅行者の口コミで『良い温泉街がある』と評判が広まりました」。今回ご案内いただいたヤドロクの石坂さんが、そうおっしゃっていたことを思い出します。
私も渋温泉から帰ったあと、いかに心地よく過ごしたかを友人に夢中で語り、「渋温泉に行こう」と誘ったのでした。





