甲斐みのりわたしのまちのたからもの

中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます

名建築に泊まる
スペシャルな体験
(三重県伊賀市)

September 02. 2026(Wed.)

ー前回までの記事はこちら
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本と旅人が出会う、伊賀の新しい名建築「SAKAKURA BASE」へ(三重県伊賀市)

三重県伊賀市で、今私が最も気になっている場所が「旧上野市庁舎 SAKAKURA BASE」です。
世界的建築家ル・コルビュジエに師事し、日本の近代建築を代表する建築家・坂倉準三氏が設計した名建築。行政機関としての役目を終え、2025年7月から図書館とホテル、観光交流の拠点を備えた複合施設「SAKAKURA BASE」として新たな歩みを始めました。

その再生を手がけた「MARU。architecture」の高野洋平さんと森田祥子さんにご案内いただき、「SAKAKURA BASE」内のホテル「泊船 HAKUSEN」やカフェ、セレクトショップなどを巡りました。

MARU。architecture
https://maruarchi.com/

広々とした回廊が印象的な
宿泊フロア

「SAKAKURA BASE」の2階がホテル「泊船 HAKUSEN」のフロア。全19室の客室を備え、公立図書館と一体になったホテルという日本でも珍しい試みです。
2つの中庭を囲むように回廊が巡り、その外側に客室が並びます。客室は、市庁舎時代の執務室や議員控室の区画をできる限り生かした造りになっていて、かつてこの建物で人々が働いていた気配を感じることができます。

「ホテル部分も、できるだけ当時の姿を残したり、復元したりしています。この廊下の合板の壁もその一つです。日本の建築には、軒や縁側のように内と外をゆるやかにつなぐ文化がありますが、それを意識して設計されたのではないかと思います」と森田さん。
1階の図書館がまちへ開かれているのに対し、2階のホテルは2つの中庭へ開かれています。広々とした回廊も、市庁舎には珍しい造りです。
「ホテルでは庁舎以上にプライバシーが必要なので、客室の前に新たにポーチを設けました。回廊を歩きながら改修前の写真をご覧いただけるようにしていて、ギャラリーを巡るような気持ちで楽しんでもらえたらと思っています」(森田さん)

昔の庁舎と現在のホテルが静かに重なり合い、この建物が歩んできた時間に思いを巡らせました。

「旧上野市庁舎 SAKAKURA BASE」Webサイトにて、フロアマップを確認できます。

東西南北に回廊が広がり、
その先に19室の客室がレイアウトされている。
玄関ポーチに飾られているのは、
改修前の旧上野庁舎の写真。

回廊から中庭へ目を向けると、建物の細かな意匠にも自然と目が留まります。

「煙突やガーゴイルと呼ばれる雨どいが見えますよね。坂倉さんは、雨水の流れをあえて見せることで、自然とのつながりを表現したのではないかと考えています」と高野さん。
さらに屋上には、今では全国的にも珍しい「ミュージックサイレン」が残されています。戦時中の空襲警報を連想させないよう、やさしいメロディーを奏でる時報装置として開発されたもので、現在も伊賀のまちに時を知らせ続けているそうです。

2階中庭越しの屋根上に見える小さな小屋が、
全国的にも珍しい「ミュージックサイレン」。
自動演奏のメロディーで時報を伝える。

静かな時間が流れる客室

人気の宿泊施設ですが、幸運にもこの日、宿泊することができました。私が泊まる客室で、まず目を引いたのが、どしっと構えたコンクリートの柱です。普通なら視界や空間を圧迫しそうですが、不思議と邪魔に感じません。木製の型枠を用いて仕上げた木目の跡がそのまま残され、建築ファンには見逃せない見どころになっています。

インテリアには、坂倉建築研究所が手がけた天童木工の家具をはじめ、地元作家による陶芸作品やアート、伊賀にまつわる小冊子、丁寧に選ばれた書籍などが並びます。一つひとつが主張しすぎることなく調和し、この場所ならではの空気をつくり上げています。
印象的だったのは、テレビが置かれていないこと。本を読んだり書き物をしたり、考え事をしながら過ごす。そんな、ごく当たり前の人の営みがよく似合います。

ホテルのコンセプトは、「本を手に、言葉の湖に漂いながら、静かに泊まる」。
その言葉が、こんなにもしっくり馴染むとは。

宿泊者限定で参加できる建築ツアーも用意されており(施設状況により、開催してない日もあり)、私もご案内いただき館内を一巡しました。MARU。architectureのお二人からうかがった話を思い返しながら建物を歩くと、また新たな発見があり、この建築の奥深さをあらためて実感しました。

泊船 HAKUSEN
https://hakusen-iga.com/

木型枠の木目を活かしたコンクリートの柱が
中央にあるスタンダードな客室。窓からの
景色は部屋ごと異なる。
テーブルに設置された便箋や小冊子。
冊子には、SAKAKURA BASEの再生の物語や
伊賀のまちの魅力が綴られている。
数種類あるウェルカムドリンクから、
愛らしいクリームソーダをセレクト。

カフェ、ご当地セレクトショップが併設

「SAKAKURA BASE」には、軽食や喫茶が楽しめる「CROSS CAFE」と伊賀の魅力を集めたセレクトショップ「伊賀百貨」も併設されています。観光の合間の休憩やおみやげ選びに重宝するスポットです。

「伊賀百貨」を見て回り、なかでも私が気に入ったのは、伊賀焼窯元・長谷園のエッグベーカー。朝食で愛用していることもあり、思わず手に取りました。窯元までは少し距離がありますが、ここで購入できるのはうれしいところ。観光案内所も併設されているので、旅の相談をしてからまち歩きに出かけるのもおすすめです。

地元産の食材を活かした軽食やオリジナル
ドリンクが楽しめる「CROSS CAFE」。
「CROSS CAFE」でオーダーした
「バタフライピーソーダ」。
「伊賀百貨」には、和菓子、お酒、
忍者グッズなど、伊賀のおみやげが並ぶ。
「伊賀百貨」で見つけた長谷園のエッグベーカー。
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