
中部地域のさまざまなまちを文筆家・甲斐みのりさんが訪ねます
建築を目印に
伊賀のまちを歩く
(三重県伊賀市)
September 03. 2026(Thu.)
ー前回までの記事はこちら
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本と旅人が出会う、伊賀の新しい名建築「SAKAKURA BASE」へ(三重県伊賀市)
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名建築に泊まるスペシャルな体験(三重県伊賀市)
三重県伊賀市の「旧上野市庁舎 SAKAKURA BASE」以外にも、同エリアには坂倉準三氏が手がけた建築があります。さらに、坂倉氏の建築以外にも、時代を超えて受け継がれてきた名建築が数多く残されています。
今回も引き続き、MARU。architectureの高野洋平さん、森田祥子さんとともに坂倉建築を巡り、その後は一人で明治時代の木造校舎へ。建築を目印に歩くことで、伊賀というまちの奥深さに触れることができました。
MARU。architecture
https://maruarchi.com/
「SAKAKURA BASE」をあとにして、MARU。architectureのお二人と建築さんぽへ出かけました。
伊賀市では、旧上野市庁舎と同じ時期に市庁舎や学校、公民館など、いくつもの公共建築が坂倉準三氏の設計によって建てられました。その多くは姿を消しましたが、現存する建築の一つが、SAKAKURA BASEの西隣に建つ「上野西小学校体育館」です。
「この体育館の柱は、十字形になっているんです。坂倉さんは構造そのものをデザインとして見せることを大切にしていました。屋根を支える柱も、その美しさが際立つように設計されています」と高野さん。
さらに窓のサッシにも工夫がありました。
「普通ならまっすぐな断面ですが、この建物では一番力がかかる中央部分だけ少し厚みを持たせています。風圧まで計算して、オリジナルで設計されているんです」
こうした話を聞くと、それまで何気なく見ていた柱や窓の魅力に気がつき、輝いて見えました。
私は旅先で、一人で建築を眺めながら歩くことがよくあります。でも、実際に建築を手がける方と一緒に歩くと、建物の見え方はまるで違いました。建築家ならではの視点を教えていただける時間は、なんとも贅沢な体験です。そして毎日この建物を使っている子どもたちが、うらやましくもなりました。
「上野西小学校体育館」は、1966年竣工。


鉄骨の立体トラスで構成。
軒の出が大きいのが特徴的。
続いて訪れたのは、伊賀上野城や俳聖・松尾芭蕉をたたえる「俳聖殿」が建つ上野公園です。
ここにある「上野公園レストハウス」も、坂倉準三氏が設計した建築の一つ。もともとは、公園の休憩所と公衆トイレとして計画された施設で、現在も一部は「レストハウス 地場産買物処」として活用されています。
実は以前、私は俳聖殿を訪ねてこの公園を歩いたことがありました。でも、そのときは、この個性的な建物が坂倉準三氏の作品だとは知らず、何気なく通り過ぎてしまっていたのです。
今回、お二人に案内していただいたことで、初めてその魅力に気づきました。傘を広げたような軽やかな屋根の形、そして公衆トイレを公園の傾斜を生かした半地下に設けることで、景観に溶け込ませる工夫。どれも、使いやすさと美しさを両立しようとする坂倉建築らしい発想が感じられます。
建築さんぽのおもしろさは、少し意識して歩いてみると、発見がたくさんあること。有名な建築だけではありません。ふと目に入る建物にも、「なぜこんな形なのだろう」「どんな人が設計したのだろう」と想像が広がります。
空へ向かって大きく手を広げたような上野公園レストハウスを眺めながら、その自由でのびやかな姿が、新しい建築を生み出し続ける高野さんと森田さんのお二人とも、どこか重なって見えました。
傘のような、きのこのような、独特の意匠。
MARU。architectureお二人と重なります。
旧小田小学校
MARU。architectureのお二人と別れたあと、もう一つ訪ねてみたかった建物へ向かいました。現存する小学校校舎としては三重県内で最も古いとされる「旧小田小学校」です。
1881年に建てられた木造擬洋風二階建ての校舎は、寄棟造りに桟瓦葺きの屋根を載せた端正な佇まい。創建当時は「啓迪(けいてき)学校」と呼ばれ、平成初期に解体調査と復元保存工事を経て、往時の姿がよみがえりました。
白い下見板張りの外壁と均整のとれた窓が並ぶ姿は、まるで明治時代の物語の中へ迷い込んだよう。建物の前に立っているだけで、うっとりするような時間が流れ始めます。
館内には、明治初期から昭和40年代頃まで使われていた教科書や賞状、児童作品、写真、学習用具など三百点を超える資料が展示されています。
この地域は洪水にたびたび見舞われた歴史があるそうです。それでも人々は、上野城近くの現在地へ集落を移し、新しい時代を生きる子どもたちのために学びの場を築きました。建物の意匠や展示された教材からは、教育への深い思いが静かに伝わってきます。
建築を知ることは、まちの記憶を少しずつ読み解いていくことなのだと感じました。
バルコニーが特徴的。


並べた教室の再現コーナー。


もとに復元したもの。





