高島屋の和菓子バイヤーが中部地域注目の和菓子をご紹介
【特別編】
「中部和菓子図鑑」監修
髙島屋和菓子バイヤー
畑 主税さんインタビュー
August 23. 2023(Wed.)
和菓子バイヤーになったのは、
実はバツの悪さから
「中部和菓子図鑑」を監修しているのは、髙島屋全店の和菓子バイヤーを務める畑 主税さん。全国の和菓子を食べ歩く旅を日常としており、SNSでその様子を発信。行く先々でファンに囲まれる日々を送っている。
畑さんは、実はバレンタインデー生まれ。誕生日にプレゼントでもらったチョコレート以外は、子どもの頃から甘いものは食べてこなかったとか。
「ケーキもあんこも決して好きではなかった私が、髙島屋に入社して配属されたのが洋菓子売り場でした(笑)。生鮮食品を希望していましたが、まさかお菓子を担当することになるとは思っていませんでした」
入社当時はちょうどパティシエブームで、パティシエ達が独立開業し、髙島屋に出店し始めていた黎明期だった。
「パティシエ自らが運転して商品を持ち込み、髙島屋のショーケースに並べてマイクを持ってお客さまに説明する姿を見ていれば、食べたくなりますよね」
そうして徐々に甘いもののおいしさを理解するようになっていったのだという。
新入社員は3年で異動することがほぼ決まっていたそう。畑さんも洋菓子を3年担当し、いよいよ異動だと思い、年度末にお世話になったパティシエの方々に挨拶にまわったのだそうだ。ところが!なぜか異動はなし。
「もうバツが悪いといったらない!そこでマネージャーにお願いし、せめて洋菓子から和菓子へと担当を変えてもらったんです」
思わぬキッカケで、和菓子バイヤーの道がスタートした。
知れば知るほど見えてくる
中部和菓子の魅力
洋菓子から和菓子へと担当が変わったのが2006年4月。その翌月から、実家のある関西に帰っては、京都の和菓子屋を自転車で100軒ほどまわった。同様に住まいのある東京でも多数の和菓子屋を訪ねてまわる日々。当時、髙島屋で扱っている和菓子店舗はまだ数えるほどしかない時代だったが、畑さんはその数字を驚異的に伸ばしていった。
京都と東京それぞれで和菓子について学び、「和菓子屋の旦那さんや女将さんたちから、本当に多くのことを学ばせてもらったことが私の和菓子バイヤーとしての原点です」と語る。
そして、中部地域の和菓子に出会った時には、その独特の魅力に驚いたという。
「東京と京都に挟まれている中部地域の和菓子屋さんは、独自に発展しています。古くは東海道や中山道で人の往来があったこと。伊勢神宮(三重県)や善光寺(長野県)、飛騨高山(岐阜県)など、根強い人気の観光地があること。そして、武家と町人文化が発達した東京、公家文化に守られた京都の両方の良いところがうまくミックスされているのです。さらに現代では、新幹線が日本列島の移動時間を一気に縮めたことで手土産の需要が高まった」
中部5県それぞれで異なる魅力があるところもおもしろい。
「尾張徳川家の茶の湯文化が華やかな名古屋を中心に上生菓子のレベルが高く、尾張と三河の郷土色あふれるお菓子がある愛知県。特に名古屋市は、生菓子・干菓子から団子・煎餅など、本来なら専門店として独立していることが多いジャンルの和菓子が1つの和菓子屋さんに揃っていることが多いのもおもしろい特徴です。それから、日本を代表する清流・長良川を抱く中濃と揖斐川の西濃では瑞々しいお菓子、そして東濃は栗の一大産地で栗菓子の聖地である岐阜県。伊勢神宮に参拝する旅人をもてなす道中食として親しまれた名物餅が今も残る三重県。東海道で腹持ちの良い団子や大福などのお菓子が発展した静岡県。そして、果物や木の実の有名な産地で、南北それぞれに地域性が秀でている長野県。そんなふうに、中部地域は和菓子の魅力をたっぷりと湛えています。だから、玄関口である名古屋に降り立つたびにワクワクするんです。そして和菓子屋のご主人たちと時を忘れるまで語り合い、この地域の和菓子の奥深さを感じています」
今も、和菓子の世界へといざなってくださった方達には感謝の気持ちを忘れていないという。
一方で、後輩バイヤーの教育にも余念がない。
“畑塾”という名の研修制度を社内で立ち上げ、和菓子の基礎知識の勉強会はもちろん、和菓子屋の生産現場の見学、地方都市から東京都内の髙島屋へと和菓子を運んで販売するまでを一緒に動いて見せるOJTを実践している。
「作り手に会い、思いを受け止め、お菓子を預かってお客さまにお届けする。そうすると商品への愛着はひとしお。この感覚は現場を経験しないと生まれないものだと私は信じています」
この確固たる仕事哲学が、多くの人に和菓子愛を届ける原動力となっている。
まるごと一冊、中部の和菓子を特集した冊子『交流Style Magazine』最新号にも畑さんのインタビューを掲載。和菓子屋巡りの楽しみ方を語っていただいています。こちらも合わせてご覧ください。【「交流Style Magazine」no.127 畑 主税さんインタビュー】